2014年8月12日火曜日

『デリヘルDJ五所川原の冒険』第三章

 『デリヘルDJ五所川原の冒険』第三章です。第一~二章は電子書籍雑誌「月刊群雛」9月号に掲載。第四~六章は今後『月刊群雛』に掲載予定です。
 第三章

「ゴッシー、おまえと仕事するの久しぶりだな。しかもラブホテルか。出張ヘルスっぽいじゃん」
「いつぐらい振りだろうな。あれだろ、レコードプレーヤーマニアが運営してる『電蓄砦』とかいうサイトのちっさいオフ会に二人で行って以来じゃん」とオレは歩きながら応えた。
「あーそうそう、思い出した。変なオフ会。メンバー各々がレアなプレーヤー持ち寄ってたよな。超機材オタクでさ。音楽には興味無ぇし金もかけたくないって感じ。でも、色んなの鳴らしてみたいから、レコードたくさん持って来てくれって依頼だったっけ。」
「重かったよなー。事務所に居たのがオレとお前でさ。DJは誰でもいいっていうんで、二人でダンボール六箱? パンパンにアナログ詰めて、キャリーカートに三箱ずつくくりつけて」
 スクランブル交差点で立ち止まり、信号が変わるのを待ちながら、オレと佐藤はしゃべり続けた。佐藤は「メチャまわし学園」の同僚、源氏名はDJシュガーだ。シュガーは言う
「あいつらの古ぼけたアンティーク・プレーヤーにレコード乗っけてさ、つい、いつもの調子でスクラッチしたら、エライ怒られたよな。『モーター痛めるだろっ!』って」
「懐かしいね。なんかさ、『やはり音が緻密ですね』とか『低音の抜けが違いますな』とか言ってたよな。カッコイイ曲だねとか泣けるバラードだねとか、曲の感想は一切無し」
「あんときゴッシーさ、工事現場でチェーンソー振り回してるようなLPかけなかったっけ?」
「あー。初めはかけるつもりじゃなかったんだけど。普通に音楽の感想を聞きたくてさ。ロックかけてジャズかけて、クラシックかけてそれでも反応無かったろ。プレーヤーじゃなくて『あ、これいい曲だね』って一曲でいいから言わせたかったんだよ。でも、『ガラード301は中音域が強いですな』とか、そんなんばっか。いい加減トサカ来ちゃって。ノイジシャンのMSBR&スペキュラムファイトのコラボLPをさ、かけちゃった。めちゃめちゃウルサかったでしょあれ、わざと七十八回転で回してさ。もう、もう、自分でもブッ飛んだ。いつもより凶悪、鼓膜を戦車でブチ破るようなノイズ。それなのに……」
「そうそう、あの轟音には俺もビックリしたよ。思わず耳ふさいだもん。まぁそれ以上に驚いたのがあいつらの反応だったけどな。『やはりガラード301は中音域が強いですな』って、もう一度言ったよな?」
「ほんと一瞬、耳を疑ったね。何かけても結局同じかよ、みたいな」
 道玄坂を上り途中で右折しホテル街に入り、指定されたラブホテルへとオレ達は向かった。

 こうして久しぶりにDJシュガーと組んでの仕事となった訳だが、話は一時間ほど前、「メチャガク」事務所にさかのぼる。
 三々五々集まったDJがいつものように、棚のレコードを見たり、雑談したりで、事務所にはのんびりした空気感が漂ってた。しかしそれも電話が鳴るまでさ。
 トゥルルル……トゥルルル……
マスターがケータイを耳に当てるとDJ達が聞き耳を立てる。
「はい、アナ専門メチャまわし学園です」
「ええ、それですと五万円ポッキリです。交通費は別です」
 大きな仕事だ。同じ時間回すなら、一人を相手に千五百円より、百名以上で五万円の方が絶対いい。事務所内に緊張が走る。
「どのようなジャンルがお好みで……ええ、分かりました」
 マスターはケータイを切った。
「でかいハコから来たぞ。急遽欠員が出たらしい。メジャーデビューのチャンスかもよ」
 どこなんだ、みんながマスターの口元に注目している。
「ジャンルはヒップホップ/R&B、場所は新木場、もう分かったろ、「オトハ」だ! 行きたい奴?」
 全員がサッと手を上げる。
「おいおい、ゴッシー、お前はヒップホップできねぇだろ」
「大丈夫っすよ。ランDMCとパブリック・エネミー持ってるし」
「いつの時代だ、死ね。ケンGが居れば、あいつにしたんだが」
 マスターは見回す
「おっと、佐藤まで手上げるなよ。お前、王道ロック、ロンドンナイト方面だろ」
佐藤はニヤッと笑い手を下ろした。
 マスターは独り言を言うように
「『オトハ』は女の子多そうだからなぁ。じゃあ……呉羽(くれは)行ってくれる? お前イケメンだし、R&B系OKだったよな」
「ありがとうございまーす。『オトハ』ってことはDJ機材は完備っすよね。やった」
 呉羽が準備を終え、事務所から出て行くと、残りは各々、またレコードを見たり雑談したりと暇潰しに戻った。
 退屈な時間が過ぎる、
 トゥルルル……トゥルルル……
「お、今日は調子いいんじゃないの」とマスターが電話に出る。
「はい、メチャまわし学園です。……はい、3Pですか……ええ、DJは男です。こちらから二人派遣ですと料金は倍の三千円になりますが……。音楽はどんなタイプがよろしいですか……なるほど、そういう感じの、わかりました。ではホテルに入りましたら再度電話いただけますか。ええ、有難うございます」
 マスターは受話器を置いて
「乱交希望入りました~。グチャグチャした過激なプレイ希望らしい。差を際立たせるためにも、ロック王道のシュガーとジャンル不明のゴッシーのコンビがいいんじゃねぇの。前にも何回か一緒だった事あるよな。ターンテーブル四台持ってって、お二人の超絶スクラッチで煙が出るくらい楽しんできな!」
「もしかしてお客さん、女?」とシュガーが聞いた。
「行ってからのお楽しみ~」マスターは教えてくれない。
 まもなくその客からホテルに入ったと電話があり、マスターはホテルまでの地図をモノクロでプリントアウトし403と書き込んでこちらに渡す。俺とシュガーはちょっとした打ち合わせと準備をして事務所を後にした。
 
 まぁそんな感じで「電蓄砦」オフ会の思い出話をしながらオレ達は道玄坂を抜け、今、指定のホテルに着いたってとこ。
 狭いエスカレーターに入り四階まで上がる。
エレベーターのドアがゆっくりと開き、キャリーを引きずりながら403号室へ。
 客が女である事を祈りながら、部屋のドアをノックする。
 ガチャッ
 身長一九〇センチぐらいか、角刈りでひげを生やし、ガッシリした体型の男が立っていた。左胸に大きくAFとプリントされた白いポロシャツ。アバクロンビー&フィッチだ。しかしなんで筋肉質の男はみんな、アバクロ着るかね。そして視線を下にずらすと白い短パンに濃いすね毛……残念。
「待ってたぜ。さぁ入ってくれ」
 オレが客だったらチャンジ!って言いたいところだが、しょうがない。背を向けた男に続いて部屋に入る。
 室内は十八畳ぐらいか、結構広く間接照明を使ったオシャレな雰囲気だ。左手奥にベッドとナイトテーブル。壁には薄型の大型テレビとその対面にソファそしてクローゼット。正面やや右手には、半開きになった曇りガラスドア越しにバスタブが見える。これで客が女だったら、本当の『プレイ』パーティになったかもしれないのに。
「ざっとシャワー浴びてくるから、用意しといてくれ」と男はバスルームに入った。
「男だったな」 
 とオレはベッド手前の床にレコード箱を置き、ターンテーブル二台を並べた。
「ああ」
 シュガーも横で同じように並べている。ポータブルとはいえ、ターンテーブルが四台並ぶとカッコイイ。
 四台分の配線を終え、持ってきたレコードをパラパラと確認していると、背後でバスルームから男が出てくる音がした。
「用意はできたかい」
 男は後ろからオレ達の横を通り、こちらを向いて目の前のベッドにどすんとあぐらをかいて座った。視線を上げると、下半身は紐パン、前がメッシュでチンコが透け、上半身はもちろん裸、胸筋をピクピクさせている。
「料金がDJ二人分三千円だよな」
男はナイトテーブルの引き出しから財布と親指大の小さなプラボトルを取り出して上に置き、千円札三枚をこちらに渡した。
 代金を受け取り、シュガーは男に尋ねる。
「いろいろ混ぜこぜになったプレイをご希望、でよろしかったですか」
「そうそう。なんか普通のじゃ満足できねぇの。もうグッチャグッチャにミックスしてよ。あ、でもその前に、君らの名前教えて」
「DJシュガーです」
「DJゴッシーです」
「俺はフトクマ。今日はヨロシクな。ほら三人も居ると暑いからさ、上着脱ぎなよ」
「え? いや、いいです。大丈夫です」とシュガー。
「遠慮するなって。恥ずかしくないだろ。男しかいないんだし。それとも無理矢理脱がして欲しいか?」
「あ、いや、そういうのはちょっと」
 固辞するシュガーに脱げよとウィンクしてオレはシャツを脱いだ。確かに三人にしては部屋が暑い。
「では始めます」
 上着を脱いだシュガーがプレーヤーを二台同時にスタートさせる。左右の内蔵スピーカーから違うジャンルの曲が流れる。ボサノヴァとレゲェだ。てっきり七〇年代ロックで来ると思ったが、最初はゆっくりしたムードで行くつもりらしい。両方のゆるいリズムが微妙に干渉しあって気持ち悪い。シュガーは人差し指を回転しているレコードの淵にわずかに当て、摩擦でゆっくりとテンポを落としていく。あぁヴォーカルの声がゆがむ。
 男はこちらを向いたままベッドに横になり、片手で頭を支えながら
「あー船酔いみたいでいいねー。ほら、ゴッシーもボーッと座ってないでレコードかけてよ」
 シュガーが洋楽なら俺は邦楽にするか。ぼやっとしてる時間は無い。レコード箱をパタパタと探る。全く同じシングルを二枚抜き出し、プレーヤーにセット。ゆっくりとボリュームを上げる。
「おー、微妙にズレて楽しいな」
「二枚同時がけっていって、よくやるんですよ」
「へーそーなんだ。あー四台同時に鳴るとええわぁ」
 シュガーがLP『ロンドンナイト』からワムをかけると
「ああぁぁ、溶けそう。ジョージ・マイケルの声ってイケるよなぁ」
 フトクマは仰向けになり目を閉じ、口をだらしなく開けてハァハァ喘ぎながら聞き入っている。気のせいだろうか、紐パンのメッシュ部分が盛り上がってきてるようだが。
「もっとおぉぉ、グチャグチャにしていいよぉ。スクラッチばんばんしていいぜ」
 フトクマは自分の胸筋を触ったり乳首をつねったりしている。シュガーはボサノバからテクノ、レゲエからオールディーズへとレコードを替えて二台のボリュームを素早く上げ下げし、レコードを交互にかけてるようなプレイをみせる。じゃあこっちはコレだ、落語とさだまさしをセットし、回転数を上げ下げする。早送りになったりスローになったりメチャクチャだ。
 テクノのビートに乗ったさだまさしの声に反応したのか、男が言う。
「あー。純くんたまんねぇよなぁ。ここ十年くらいずっと使ってるよ。成長すんのがよくねぇ? あの気弱な感じもさ。まじガンボリしてぇ。俺のダチで田中邦衛がいいって奴いるけど、それはヤベーよな
 純くん? ガンボリ? まぁいいや。プレイに集中集中。さだまさしを外しもう一枚落語のレコードを置く。これで圓楽と歌丸のツイントークだ。舞台に上がった二人が同時に別々の噺をしゃべりだしたみたいでサイコー。しかもシュガーがプレスリー、ストーンズにディープパープルと熱く攻めてくるもんだから、俺も負けじとガチャガチャつまみを上げ下げして、頻繁にレコードをとっかえて、あいつのレディオヘッドに千昌夫かぶせたりしたよ。ラクゴオールディーズエンカロックだ。シュガーもノッてきたのか、こっちにに手を延ばして俺のレコードをスクラッチする。それならこっちもと、俺はあいつのプレーヤーに載ってるレコードをギュイギュイ擦る。強烈なカットアップが始まる。暑い。室温がまた少し上がったようだ。
 speaking words to /キュキュィッ/さ行ぐだ~/ギュギュギュ/love you /おふく~ろ~/シュグググ/here it comes/今何時だいなんて/kill kill die die/なんてことを言いまして/キュッキュィッ……
「いーねーカオスだ。君らイーッ! ああ凄げぇ、もっと擦って、あぁ、もっと、うふうっ、擦って、激しく!」
 フトクマはメッシュからはみ出し直立するチンコをスクラッチに合わせてしごきながら
「お前ら、ホント凄い。チョット待ってくれ。このままだと出しちまう。メロウな曲に換えてくれ! 予定が狂う」
 シュガーがこちらを向いて頷き、右手で「四」を作った。同一レコード四枚がけの合図だ。ここに来る前、二人で打ち合わ中に思いついたプレイ。使うLPはルー・リード『メタルマシーン・ミュージック』。ロックの大御所が作った意味不明なノイズレコードとして有名なこの作品。ノイズ音楽系のオレとロック系のシュガーが共通して持ってる唯一のLPだ。ルー・リードぐらい有名になると、事務所には予備で同じのが何枚か置いてあるからさ、二枚借りてきて、で、オレの一枚とシュガーの一枚足して計四枚揃えたってわけ。
 シュガーがまず右のプレーヤーそして左のプレーヤーと順番に『メタルマシーン・ミュージック』をセット。金属が軋むようなノイズがスピーカーから流れ出る。続いてオレも同じLPを順にかけていく。歌もリズムもメロディもないただのギターノイズがいつもの四倍のうるささで室内を満たす。
「うぉぉぉ、お前らスゴスギ」
 フトクマは紐パンを脱いでベッドから降り立ち
「ほらもう、こんなになっちゃったぜ」
 ギンギンになったチンコを左手で擦りながら右手でナイトテーブルの上にあったプラボトルを掴み取った。親指で蓋を弾いて、胸元でボトルを逆さにするとタラーリと透明な液体が糸を引いて下に落ちる。ローションだ。それを太くなったチンコで受け止め左手で亀頭から金玉までヌラヌラとのばしながらフラフープで円を描く様に腰をグラインドさせ、
「ほらほら、欲しくなってきたろ、このぶっとい肉棒をよ」
「いや、あの、そ、そ、そういうのはちょっと困ります」
 シュガーは激しく首を横に振った。もちろんオレもだ。
 フトクマは見せ付けるように体にもローションを塗り、チンコをしごいた。ローションと混じったガマン汁がトロリ、トロリと床に垂れていく。
「な~に、遠慮してんだ。お互い楽しもうや。もう一人呼ぶか?」
 もう一人?
「お前らのアナルちゃんが(くわ)えるえ込みたくてヒクヒクしてんじゃねぇのか」
 シュガーも顔を引きつらせて言う。
「い、いや、本当にそれはちょっと」
「なんだ、和姦ダメかよ? じゃぁ、しょうがねぇなぁ……サトル出て来いよ!」
 え、サトル? 誰?
 突然後ろのクローゼットがバンッと開き、ハッと俺達が振り向くとゴツイ男が全裸&チンコギンギンで立っていた。隠れてたのか。どうりで部屋が暑かったはずだ、と思う間も無く、サトルとやらがシュガーに襲い掛かり、俺は助けようと立ち上がったものの、後ろからフトクマに羽交い絞めにされてしまった。ローションに濡れた胸筋が背中に触れ、熱い吐息が耳にかかる。
「ほら、言う事聞いて楽しもうぜ。カッタイ黒マラ当たってんの……分かるだろ」
 フトクマはローションボトルをサトルに渡し、オレのジーンズから素早くベルトを抜き取った。ヤバイッ。スッとジーンズが落ち、オレはトランクス一枚に。
 トランクスの裾からズンッとアヌスに何か太い物が入った。
「痛ぁあぁあぁぁぁ!」
「おおう、ヌッポシ、ヌッポシ。スゲー締まるぜ。いいケツマンコしてんじゃねぇか。ビールとアナルはやっぱ生に限るわ」
 うぅう、肛門が熱い。横を向くと、床に仰向けのままズボンを剥ぎ取られたシュガーが、がっつり両腿を抱えられ正常位で犯される寸前だった。ローション光りしたサトルの巨根がチラッと見え、俺は目を逸らした。
「ギヤーーーー」
 シュガーの悲痛な叫びが室内にこだまする。
 逃げようと思ってもフトクマに背後から串刺しにされてズン、ヌチャッ、ズン、ヌチャッと休み無く突かれていては力も入らない。しかもだんだんペースが速くなってきている。
「ゴッシー、お前のケツマン最高だ。あぁ腰が止まんねぇぜ。ガン掘りされる気分はどうだ? イイダロッ! ほらもっと深く突いてやる」
 イダダダダッもうダメだ。アナルが擦れて火を噴きそうだ。意識が朦朧として、頭の中が真っ白に、ルー・リードのノイズと相俟ってホワイトノイズの嵐が眼にちらつく。ノイズの隙間からシュガーが見える。あ、サトルが腰を抜いた……うわっ、顔射してる。
「オラオラ、ゴッシー、さぁ雄汁、ぶっ放すぞ」
 ドクッ、ドクッ、ドクッ。あぁぁこっちは中出し、熱い液体が腸壁に当たってる。薄れる意識の中でフトクマの脱いだ白いポロシャツが目に入った。ロゴのAFって、もしかしてANAL FUCK……。

 俺とシュガーは押し黙ったままキャリーカートをひきずり渋谷駅方面へと道玄坂を降った。シュガーがポツリと言う
「今日は無かったことにしようぜ」
「ああ、お互いな」
 ……腰を引き気味にして歩く二人。
「じゃあなゴッシー」
 シュガーはへっぴり腰で雑踏の中に消えていった。
〈続く〉